夜空に君という名のスピカを探して。
「はぁっ、はぁっ」


 息を切らせながら坂の終わり、道路へと続く石段の前にたどり着く。

階段の両脇は桜の木がアーチを描くように立っており、花びらがハラハラと舞っては地面に桃色のカーペットを作る。

石段は銀の手すりを堺にして、上りと下りに分けられていた。私は上がってくる人とは反対側の石段を駆け下りる。

真ん中のあたりまでやってくると、石段を上がってくる人の姿が見えてきて、自分と同い歳じくらいの男の子だということが分かった。

よく見れば、近所の仲良くしていたお兄さんも通っていた偏差値が七十八と高い進学校の制服を着ている。

サラサラとした濡れ羽色の髪とメガネの奥に輝く黒曜石のような瞳は、いかにも優等生といった風貌だ。

 じっとその人を見ていたからなのか、はたまた石段を全力で駆け下りる私を不審に思ってなのか、彼の視線がゆっくりと私を捉えた。

 うわっ……すごく冷たい目。

 どこか温かさを感じさせる桜吹雪の中、彼の瞳の冷たさは真冬の如く凍てついている。

世界と彼の纏う空気の温度差は、天と地ほどあった。

 しかし視線が重なったのは一瞬で、すぐにすれ違う。行く当てもなく逃げる私と、帰宅途中なのだろう男の子は反対方向へ進んでいく。

 進学校に進むあの男の子には、私みたいな凡人の悩みなんて理解できないんだろうな。

そんなひがみを胸の内でこぼして「本当、羨ましいよ」と悪態をつきながら、石段を下りきった。

そしてそのまま、左右を確認せずに道路に飛び出したとき──。


「お嬢ちゃん、危ないよ!」


 道路を挟んで向かいの歩道から、青い顔でおじいさんが叫んでいた。

ハッとして振り向いた瞬間、視界が真っ白な光に包まれる。


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