夜空に君という名のスピカを探して。
『それは……私も同じだよ。宙くんがいるかいないかで、私の心は春にも冬にもなるの。不思議だよね、どうしてこんなに……』


 心が四季のように、くるくると変わるのだろう。

それは喜びだけでなく苦しみも連れてくるのに、どうして心地いいだなんて思ってしまうのだろうか。


「それは……俺には心当りがあるけど、お前にはないのか?」

 まるで、心の内を探るような言い方。

それって、私が君に抱いている感情と同じものを君も持っていると思っていいのだろうか。

だとしても、君を置いていく私がすべてを語ることはできない。してはいけないと思うから……。


『私にも心当たりがあるよ。たぶん、君が気づくずっと前から』

「そうか……その言葉が聞けただけで十分だ」

『あのね、宙くん。今は離れ離れになっても、私たちはこの先の未来で繋がってる』


 遠回しの告白と、願いを込めてそう言った。彼の心か、それとも私の心なのか。

ひどく揺さぶられている。時間が止まったみたいに、世界が透明度を増して見える。

「あぁ、そうだな。楓、もう一度お前に会えたら伝えたいことがある」

『宙くん……』


 今すぐにその言葉を聞いてしまいたいけど、それを聞いたらいけない。これは希望を込めた、私たちを繋ぐ約束だから。


「だから絶対に、俺たちはまた出会える」


 それが何十年先、何百年先でも、はたまたひとつの人生を終えて生まれ変わった先でも。

きっとどこかで、未来で、君に会えると信じている。


『私たち、必ず出会うよ。ううん、会いに行く。宙くんの言葉を聞きに、必ず』

「なら俺は……何度もスピカを見上げる。

それで、立ち止まらずに歩き続けるよ。その先に楓がいるって信じて」


 もう二度と見上げることのないこの星空を目に焼きつけようとして、視界が歪んだ。

 まだ一緒にいたい。

なのに旅立たなきゃいけないことが辛くて、涙が止められない。

 ──あぁ、これじゃあ星が見えないや。

 だけど、君の中で見る景色が曇ったままなのはもったいない。

そんな私の気持ちが通じてか、彼は目元を拭う。

すると彼の瞳を通して、音もなく瞬いている星々が鮮明に見えた。


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