夜空に君という名のスピカを探して。
『本当に私……宙くんに出会えてよかった』


 この切なささえ、君に出会うためだと思えば愛おしく思える。

 じっとスピカを見つめていたら、いよいよ意識がぼんやりしてきた。

 ──あぁ、最後の逢瀬が終わるんだ。


「楓といられて、俺も幸せだった」


 宙くんの声が震えていた。

それに気づいていたけれど、気づかないフリをする。

しんみりとした旅立ちは、嫌だったから。

 この人が幸せだと言ってくれただけで、私は救われた。

もう迷いも恐れもない。

今はただ、君との再会を夢見ている。


『またね、宙くん!』


 彼を悲しませないように、明るい声で言った。

そこでふと、【だから、また会えるその日までしばしの別れを。】という小説の一文を思い出す。

 そうだ、これは終わりじゃない。

ふたりの未来への一歩だから、君が好ましいと言ってくれた明るい私でいよう。

 だから宙くん、この約束を忘れないで。私も忘れないから。


「またな、楓っ」


 それはやっぱり頼りなく震えていたけれど、未来を信じている希望に満ちた声だった。

私はもう大丈夫だと、ふっと笑う。

 すでに私たちの身体の感覚は別たれていたけれど、閉ざされていく感覚の中で宙くんも笑い返してくれているのが分かった。

 意識を手放す間際、ふたりで綴った物語のラストを思い出す。


 【さよなら。】

 【大事な私の、俺の──半身。】

 もう私たちは、未来を見つめている。
 だからさよなら、さよなら宙くん。
 そして、また会おうね。
 私の、大好きな人。


『楓、お願い。起きて、楓……っ』


 遠くから、まるで泣いているかのような声が聞こえる。

これは夢の中で、幾度となく聞いた両親の声だ。私は夢を見ているのだろうか。

夢か現か分からない真っ暗な世界で、声に導かれるように私の意識はどこかへと引っ張られていく。


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