夜空に君という名のスピカを探して。
「あなた、家を飛び出してすぐに交通事故にあったのよ!」
お母さんの言う家を飛び出した日って、私が物書きになりたいって言ったあの日のことだろうか。
それは思い出せる。
あの耳をつんざくようなスリップ音に強い衝撃、身体が宙へ浮く浮遊感と地面にぶつかった一瞬は、今も鮮明に記憶に残っていた。
「あれから一ヶ月、眠ったままだったんだぞ」
「私、そんなに眠ってたんだ……」
どこかぼんやりとお父さんの話を聞いていると、『スピカの話を覚えてるか?』という聞き覚えのない声と一緒に、視界いっぱいに広がる星空が見えた気がした。
「えっ?」
なに今の、白夜夢だろうか。
見えた幻も煙のように、すぐに消えてしまう。
私はなにかが足りないような、空虚感に苛まれていた。
すると、急に声を上げた私の顔をお母さんが心配そうにのぞき込む。
「どうしたの、楓。まだどこか痛むの?」
「事故にあったんだ、まだ本調子じゃないんだろ」
お父さんの言う通りかもしれない、これも事故の後遺症なのかも。
そう思って、深くは考えなかった。
それから、お母さんが事故のあとのことを教えてくれた。
私の怪我は奇跡的にも軽傷だったらしい。
だけど、なぜか一ヶ月も意識不明で病院の先生もお手上げだったとか。
それにしても、他に大切なことを忘れているような気がしてならない。
「お父さん、看護師さんを呼んできて」
「あぁ、そうだな!」
慌てて病室を飛び出すお父さんを見送って、私は窓から見える青空を見上げた。
なんだろう、思い出さなきゃいけないことがある気がする。
なのに最初からそんなものは、なかったかのように思い出せない。
でも、胸には大事なものを抜き取られたかのような寂しさがある。
するとまた、なにかが瞼の裏に蘇る。
夜空に瞬く星に負けないくらいの桜が舞う中、黒髪を靡かせている彼はメガネの奥に見える黒曜石の瞳をこちらに向けている。
私を泣きそうな顔で見つめて「待ってる」と口を動かす。
静かに佇んでいる彼を見て、私は行かなければと強く思った。
お母さんの言う家を飛び出した日って、私が物書きになりたいって言ったあの日のことだろうか。
それは思い出せる。
あの耳をつんざくようなスリップ音に強い衝撃、身体が宙へ浮く浮遊感と地面にぶつかった一瞬は、今も鮮明に記憶に残っていた。
「あれから一ヶ月、眠ったままだったんだぞ」
「私、そんなに眠ってたんだ……」
どこかぼんやりとお父さんの話を聞いていると、『スピカの話を覚えてるか?』という聞き覚えのない声と一緒に、視界いっぱいに広がる星空が見えた気がした。
「えっ?」
なに今の、白夜夢だろうか。
見えた幻も煙のように、すぐに消えてしまう。
私はなにかが足りないような、空虚感に苛まれていた。
すると、急に声を上げた私の顔をお母さんが心配そうにのぞき込む。
「どうしたの、楓。まだどこか痛むの?」
「事故にあったんだ、まだ本調子じゃないんだろ」
お父さんの言う通りかもしれない、これも事故の後遺症なのかも。
そう思って、深くは考えなかった。
それから、お母さんが事故のあとのことを教えてくれた。
私の怪我は奇跡的にも軽傷だったらしい。
だけど、なぜか一ヶ月も意識不明で病院の先生もお手上げだったとか。
それにしても、他に大切なことを忘れているような気がしてならない。
「お父さん、看護師さんを呼んできて」
「あぁ、そうだな!」
慌てて病室を飛び出すお父さんを見送って、私は窓から見える青空を見上げた。
なんだろう、思い出さなきゃいけないことがある気がする。
なのに最初からそんなものは、なかったかのように思い出せない。
でも、胸には大事なものを抜き取られたかのような寂しさがある。
するとまた、なにかが瞼の裏に蘇る。
夜空に瞬く星に負けないくらいの桜が舞う中、黒髪を靡かせている彼はメガネの奥に見える黒曜石の瞳をこちらに向けている。
私を泣きそうな顔で見つめて「待ってる」と口を動かす。
静かに佇んでいる彼を見て、私は行かなければと強く思った。