夜空に君という名のスピカを探して。
「私、物書きになりたい気持ちは変わらない。だけど具体的にどうするのか、考えてなかったと思う」


 無計画で生半可な気持ちで、自分の気持ちを押し通そうなんて甘いんだってこと。

あの人は夢を否定されても、これからどうしていくのか、ちゃんと前を見据えていた。

両親から、夢から逃げたりしなかった。

不透明な未来を信じる強さ、不確かな道を進む覚悟、それらが私に足りないものだった。


「物書きになるためにシナリオ学科のある専門学校か、国語国文学科のある大学に行きたい。軌道にのるまではバイトをして、自分で学費も払う。頑張るから、だから──」


 反対されても、自分の力で夢を叶える。

認めてもらえるまで諦めない。

そんな決意をして、私は大きく息を吸う。


「私に夢を追わせて欲しいの!」


 大きな声ではっきりと伝えると、お父さんとお母さんは顔を見合わせて笑みを浮かべる。

それから私の目をじっと見つめて「「頑張りなさい、楓」」と、声をそろえて応援してくれた。

「っ……うん、うんっ!」


 感動の波が押し寄せてきて、胸が詰まる。

今すぐ泣いてしまいそうだったが、すぐに顔を引き締めて「ありがとう」と笑った。

 少しでもあの人みたいに強くなりたい。


「あの人、みたいに……?」


 さっきから思っていたけれど、あの人とは誰のことだろうか。

私は無意識のうちにあの人だったらこう言うだろう、こうするだろうと、誰かのことを考えている。

 私の心に住み着いているのは、誰? 

 その正体は分からないけれど、思い出さなきゃいけない。そんな気持ちが、焦りが、ずっと心にあって消えなかった。



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