夜空に君という名のスピカを探して。
 ──五年後。

 二十三歳になった私は高校時代の親友、彩と由美子と一緒に渋谷駅前のカフェでお茶する約束をしていた。

高校生の頃は渋谷や新宿の敷居が高いだなんて言っていたけれど、こうして大人になると、どこにでもある系列店ではなく、名前も知らないような穴場でオシャレなお店を選ぶことが多くなった。

 待ち合わせまで一時間ほどあるので、私は自分の本を書店で探していた。そしてそれは、難なく見つけることができた。

本屋の入り口にある新書コーナーに、ありがたいことに平置きされていたからだ。


「本当にあった……」


 ここまでたくさんの編集作業をしてきたというのに見本誌が手元に到着しても、自分の作品が世に出るという実感が持てずにいた。

今やっと、書店に並んでいるのを見て実感できたくらいだ。 

 私はゴクリと喉を鳴らして、恐る恐る本を手に取る。その本を見つめながら、なんだかこれまでいろいろあったなと感慨深い気持ちになった。

 高校を卒業してから、あっという間に数年が経った。私は国語国文学科がある大学に四年通い、その一年後。四月二五日の今日、晴れて物書きとなった。

 昔に下書きしていた作品を専門学校を卒業したあとに整えてコンペに出したところ、大賞は逃したものの恋愛部門賞を受賞することができた。

その作品が本日出版されたのである。

私は五年かけてようやく、小説家になる夢を叶えることができたのだ。

 そのデビュー作というのが高校三年生のとき、事故にあって病院を退院したすぐあとに書いた【夜空に君という名のスピカを探して。】だった。

 今思えば、事故にあってからの私は本当に変だった。

学校では授業中も昼休みも、常に衝動的に小説を書いていた。

もちろんパソコンは持ち込めないのでノートに手書きでメモをすると、家に帰ってからパソコンのワードに打ち込むの繰り返し。

 “なに”かに追いつきたくて、私は焦っていた。でも、“なに”になのかは分からなかった。

ただ立ち止まってはいけないと、そんな思いに突き動かされていた。


 物語は幽霊になった女の子が、男の子に取り憑く話。

なにがきっかけでこんなアイデアを思いついたのかは謎だけれど、なぜかこの小説を書きたいと思った。

書き始めてみると、まるで自分が体験したみたいに細かい設定まで噴水の如く頭に浮かんできて、なによりスピカの星の見つけ方や神話まで自分が知っていることには驚いた。


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