夜空に君という名のスピカを探して。
 待ち合わせ時間ぴったりにカフェに到着すると、すでに彩と由美子がいた。

ふたりと会うのは三ヵ月ぶりになる。

彩は高校生のときにユーチューバーになるなんて言っていたけれど、今はウエディングプランナーという華やかな職についている。

 対する由美子は看護師になった。責任感ある彼女にぴったりな仕事だと思う。

しかも今日は、夜勤明けで会いに来てくれたのだ。

 こうして皆の生活スタイルはバラバラになったけれど、数ヵ月に一回は会っているし、連絡も頻繁にとっている。

ふたりとは高校時代から考えると、長い付き合いだ。


「それでは楓の出版を祝して、カンパーイ」

 彩がへらっと笑って、カフェラテを手に乾杯の音頭をとる。すると不思議なことに、彼女のカフェラテがお酒に見えてきた。

「彩って頭のネジが何本か足りないところは、五年経っても変わらないよね」

「えーっ、ひどい! 由美子こそ、脳内が化石みたいに固いところは変わってないよ」

 ここは居酒屋かと思うくらい、ふたりの幼稚な言い争いはオシャレなカフェには似合わなかった。

でも私は高校生のときのように、ふたりと一緒ならくだらないことでもバカ笑いができるこの空気が好きだ。


「もう、会ってそうそう貶し合いはやめようよ」


 そういう私も、この状況を楽しんでいるので説得力はない。

三人でクスクス笑っていると、テーブルに小さな花火がついたケーキがやってくる。

店員さんは「お待たせしました」と当然のようにケーキをテーブルのど真ん中に置くと、取り分け用のお皿まで並べて下がっていった。


「彩、由美子、今日って誰かの誕生日だっけ」


 私がギョッとしながらふたりの顔を見ると、イタズラが成功したみたいにニヤニヤしていた。

ますます意味が分からなくて、ぽかんと口を開けてしまう。


「楓、ケーキをよく見てみなよ」


 由美子に促されて、私はケーキを改めて見つめる。するとそこには、チョコレートで【小説家デビューおめでとう】と書かれていた。


「これ……私のために?」


 胸がじーんと熱くなって、思わず涙が出そうになる。

 聞くまでもない・今日は私のために、集まってくれたのだ。そしてケーキまで用意して、お祝いしてくれた。

夢に悩んでいたとき、背中を押してくれたふたり。

物書きになるという夢を叶えることで、恩返しできたことが本当に嬉しかった。


< 129 / 141 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop