夜空に君という名のスピカを探して。
「私たちはこんな感じで変わらないけどさ、楓はすごく変わったよね」

 花火を吹き消すと、彩がテーブルに頬杖をつきながらそう言う。

その隣で由美子は、着々とケーキを取り分けていた。

「私が変わったって、どんなふうに?」


 そう言われても自分では分からない。

私は由美子が取り分けてくれたケーキを食べながら、首を捻る。

 彩はカフェラテに口をつけてから「たとえばー」と、考えるように視線を上げる。


「なにに対しても、強気になった」

「え、強気……? そうかなぁ」


 私は結構、物怖じするタイプだ。

小説をコンペに出すのも、正直怖くてしかたなかった。

これで落ちたら才能がないのではないか、一生続けていけるのだろうか。

そんな不安ばかりが胸に渦巻いて、身動きがとれないことも多々ある。

でも、そのたびに私は自分を叱咤した。

どこからそんな強さがわいてくるのかは分からないけれど、立ち止まってはいけない。

私と同じように夢に向かっている人がいるのだからと、誰かに追いつきたいという思いが私を突き動かしていた。


「高校生のとき、進路希望調査票を配られたでしょ? あのときの楓は自信なさげで、本当に大丈夫かなって心配だったんだけど、すぐに変わったよね」


 彩の言う進路希望調査票をもらったときの私は口ばっかりで、物書きになりたいと文字にするのさえ勇気が必要だった。

自分で自分の夢を信じられないから、誰かに出来ると言ってほしい、励ましてほしい。

安心させてほしくて、親友や両親に相談していた。


「でも事故にあったあとからじゃない? 楓は夢に貪欲になった」


 紙ナプキンで口元を拭いながら、そう言った由美子に「え、貪欲?」と私は困惑する。

それは褒められているのか、貶されているのか、どっちだろう。


「もちろんいい意味よ。悩む前に行動するというか、積極的になったと思う」


 私の心を読んだエスパー由美子が補足してくる。高校生のときから頭がキレて勘も鋭かったけれど、改めて恐るべし観察眼だと思う。


< 130 / 141 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop