夜空に君という名のスピカを探して。
「そう言ってもらえるのは嬉んだけど、私もきっかけが分からないんだよね。あれかな、死にそうになったことで生まれ変われたてきな」


 とは言ったけれど、たぶん違う。

私は事故にあって、なにか大切な記憶を失っている。

それが事故に会う前のことなのか、あとのことなのかは分からない。

でもその記憶こそ、私を変えた出来事なのだと思う。


「ねーねー、話は変わるんだけど」

 急に鞄を漁り始めた彩が雑誌を取り出して、テーブルの上に広げる。

「東京の穴場スポット特集! 今度、三人で行かない?」

 そう、彩が持ってきた雑誌に乗っているのは、星が三百六十度見渡せる公園だった。

なんでか、この景色に既視感を覚える。


「これ、この坂、楓の家の前にある坂じゃない?」


 由美子に言われて、初めて気づいた。

ふたりは私の家に来たことがあるので、確かだろう。

家の近くに、こんな公園があったことに驚いた。


「でも、この写真……」


 濃紺の空に煌く、幾千のダイヤモンドの如く輝く星たち。

それに目を奪われて、身を乗り出すようにして見つめる。


『私たち、必ず出会うよ。ううん、会いに行く。宙くんの言葉を聞きに、必ず』

『なら俺は……何度もスピカを見上げる。それで、立ち止まらずに歩き続けるよ。その先に楓がいるって信じて』


 突然、頭の中に声が響き渡る。

この声は私と誰のものだったのか、胸が切なく痛むのはなぜなのか、身の内から突き上げるように込み上げてくる愛しさは誰に向けたものだったのか。

一度にたくさんの感情が私の中にあふれてきて、目頭が熱くなる。


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