夜空に君という名のスピカを探して。
『本当に私……宙くんに出会えてよかった』
『俺も楓といられて、幸せだった』
──私の名前を呼んだのは誰?
この人が幸せだと言ってくれたことが、泣きたくなるくらい嬉しいのはなぜ?
もしかしてこれは、私の失った記憶なのかもしれない。
『またね、宙くん!』
「そ、ら……」
──そうだ。この人の名前は宙、加賀見宙。
どうして、今の今まで忘れていたんだろう。
大事な人の名前だったのに!
閉ざされた記憶の蓋が、ゆっくりと開け放たれていく。
私は事故にあったあと、奇妙な体験をした。
知らない男の子の中でどこかの高校に通い、友達と出かけたり、家族と過ごしたり、夢についてふたりで悩んだこともあった。
今日出版した小説のネタになっていたものはすべて、幽霊になった私と人間の彼が一緒に生きていた軌跡だ。
それも彼の身体に宿っていた頃に、一度書き上げている。
『またな、楓っ』
ずっと一緒にいた、大事な私の半身である君と約束したんだ。
もう一度会えたら、伝えたいことがあると言った、彼の言葉を聞きに必ず会いに行くと。
「楓、どうしたの?」
由美子の声で、我に返る。
目を瞬かせると、目じりに溜まっていた涙が頬を伝った。
「泣いてるじゃん! 由美子、紙ナプキン取って!」
「紙ナプキンは硬くて痛いでしょ。ほら、私のハンカチ使って」
心配そうな彩と由美子の声が聞こえる。
他のお客さんや店員もチラチラと私を見ていたけれど、そんなことはどうでもよかった。
私は由美子が差し出してくれたハンカチも受け取らずに、ゆっくりと頬に手を伸ばす。
温かい雫に指先が触れて初めて、この想いが本物であると悟った。
『俺も楓といられて、幸せだった』
──私の名前を呼んだのは誰?
この人が幸せだと言ってくれたことが、泣きたくなるくらい嬉しいのはなぜ?
もしかしてこれは、私の失った記憶なのかもしれない。
『またね、宙くん!』
「そ、ら……」
──そうだ。この人の名前は宙、加賀見宙。
どうして、今の今まで忘れていたんだろう。
大事な人の名前だったのに!
閉ざされた記憶の蓋が、ゆっくりと開け放たれていく。
私は事故にあったあと、奇妙な体験をした。
知らない男の子の中でどこかの高校に通い、友達と出かけたり、家族と過ごしたり、夢についてふたりで悩んだこともあった。
今日出版した小説のネタになっていたものはすべて、幽霊になった私と人間の彼が一緒に生きていた軌跡だ。
それも彼の身体に宿っていた頃に、一度書き上げている。
『またな、楓っ』
ずっと一緒にいた、大事な私の半身である君と約束したんだ。
もう一度会えたら、伝えたいことがあると言った、彼の言葉を聞きに必ず会いに行くと。
「楓、どうしたの?」
由美子の声で、我に返る。
目を瞬かせると、目じりに溜まっていた涙が頬を伝った。
「泣いてるじゃん! 由美子、紙ナプキン取って!」
「紙ナプキンは硬くて痛いでしょ。ほら、私のハンカチ使って」
心配そうな彩と由美子の声が聞こえる。
他のお客さんや店員もチラチラと私を見ていたけれど、そんなことはどうでもよかった。
私は由美子が差し出してくれたハンカチも受け取らずに、ゆっくりと頬に手を伸ばす。
温かい雫に指先が触れて初めて、この想いが本物であると悟った。