夜空に君という名のスピカを探して。
「おい、聞いてるのか……って、まさかな。疲れて幻聴でも聞こえたんだろう……はぁっ」


 声の主はため息をつき、それに合わせて視界が下がる。

どうやら俯いているらしく、胸の膨らみもない平坦な身体が視界に入る。

 それでハッキリとした。

私の意志とは関係なしに動くこの身体は、私のものじゃない。


『まさか私、この人に憑りついた?』

「お前、またか! まさか幽霊? いや、そんな非現実的なものは信じないぞ。なにかからくりがあるんだろう、白状しろ」


 騒いでいる彼の声も耳に入らないほど、私は混乱していた。

なにが原因かは分からないけれど、私は死んでしまったんじゃないだろうか。

でなければ、目覚めて他の誰かの身体の中にいるなんておかしい。

『まさか』と『なんで』の文字が頭の中を堂々巡りする。


 悩みに悩み抜いた末に私がたどりついた答えは、なんらかの理由で死に、幽霊としてこの男に憑りついたという仮定だった。


『本当に幽霊かも、私……』

「その手には乗らないぞ、いい加減に出てこい」


 出ていきたいのは山々だけど、それができないから困っている。

というか、身体がないのだからどうしようもない。出る出ないの以前の問題なのだ。


「どうせ、クローゼットにでも隠れてるんだろ」


 彼はもう一度立ち上がると、クローゼットへ近づいて両手で左右に開け放つ。

その勢いにカチャンッと、コートやセーターのかかったハンガーが揺れる。

 しきりにクローゼットをのぞく声の主はそこに誰もいないと気がついて、二、三歩後退った。


< 17 / 141 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop