夜空に君という名のスピカを探して。
「どうなってる……。本当に、どこにいるんだよ」


 私はどうやら、この男の身体に取り憑いているだけでなく感覚も共有しているらしい。

今しがた開け放ったクローゼットの取っ手の冷たさも、後退ったときの足裏に感じる絨毯の摩擦も、実際に自分の身体のように感じている感覚があった。


『あのー、憑りついておいて大変恐縮なんですけど、落ち着いてください』

「この状況で、落ち着けるわけがないだろう。しかも、幽霊のお前には言われたくない」

『本当にそうですよね、すみません』


 私に取り憑かれている彼は、迷惑千万な話だろう。

とはいえ、私もここにいたくているわけではない。

できることなら家に帰りたいけれど、この身体から出る方法も分からない。

 まさか、こんなことになるなんて……。

もうお父さんとお母さん、彩や由美子にも会えないのだろうか。

物書きになる夢も叶えられない、やり残したことばかりだ。


「謝罪はいい、それでお前は誰なんだよ」


 頭をガシガシと掻きながらベットに戻った彼は、頭を抱える。

正直に言うと、頭を抱えたいのは私のほうだった。


『私は広瀬楓、高校三年生。あなたは?』

「……俺は加賀見 宙(かがみ そら)だ。それで、こうなった経緯を説明してくれないか」


 そうは言われても、私自身もこの状況をなんと説明していいのやら。

説明を求めたいのは、むしろ私のほうだ。


『私も目が覚めたら加賀見くんに取り憑いてたから、よく分かってないんだよね。他に分かることといえば、感覚を共有してるっぽいってことかな』

「お前の言ってることの半分も理解できない……。というか、したくない。俺は非科学的なものは信じない性質なんだ」


 加賀見くんは、さっきからそればかりで頭が硬い。

彼がなかなか私の話を受けとめてくれないせいで、話が進まないから困る。


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