夜空に君という名のスピカを探して。
「おはよう、加賀見くん」

「委員長、おはよう!」


 学校へ到着すると、男女問わず視線が加賀見くんに集まった。

そして廊下を歩くと道行く人が挨拶をしてくるので、ちょっとした殿様気分だ。


『ねぇ、委員長って?』


 生徒たちに「おはよう」と短くかつ事務的に返事をする彼に、こっそり尋ねる。

私の声は彼らには聞こえないので別に声を小さくする必要はないのだが、今朝お父さんがいるところで話しかけてしまい、加賀見くんはいらぬ注意を受けてしまった。

また迷惑をかけてしまうかもしれないし、人前で堂々と話すのは躊躇われたのだ。


「……お前、もう約束を忘れたのか」


 怒りに震える声が返ってきて、私はうっと呻く。

そういえば大人しくしているという約束だったっけ、とばつが悪くなった私は「すみません」と謝って黙ることにした。

 ややあって教室の入口へやってくると、三年A組と書かれた札が見えた。

 加賀見くん、私と同い歳だったんだ。

 そんな事を考えていると、教室に入った加賀見くんの方をチラチラ見ながら皆が「委員長って、全然笑わないよね」「この間のテストもダントツで学年トップだったらしいよ」「勉強にしか興味がないんじゃない?」と噂している。

 そんな中を平然と突き進み、真ん中の列のいちばん前の席に座る加賀見くん。

皆は遠目に加賀見くんの話をしており、誰も近づこうとしない。というより、人を近づけさせない雰囲気を加賀見くん自身が纏っているのだ。


「あの……加賀見くん」


 そこにたったひとりだけ、勇者が現れた。

その子は栗色の可愛らしいショートヘアーの女の子で、チワワを彷彿とさせる瞳が印象的だった。

ポテッとしたピンク色の唇なんて、男の子ならほっとけないだろう色気がある。


「前田さん……なにかな」


 そっけなく名前を読んだ瞬間、加賀見くんの心臓が大きく跳ねたのが私にも伝わってきた。

平静を装っている彼だが、鼓動が尋常じゃないほど加速している。


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