夜空に君という名のスピカを探して。
 お昼休み、加賀見くんは屋上のフェンスを背にお弁当箱を開け始めた。

皆は教室で食べているのに、どうしてわざわざ屋上でご飯を食べているのだろう。


『教室で食べたらいいのに、ひとりでご飯なんて寂しくない?』

 気になって聞いてみると、卵焼きを口に運びながら加賀見くんは短く答える。


「話しかけるな」

『いーじゃん、誰もいないんだし』


 ずっと黙っているなんて、苦痛で耐えられない。

ただでさえ、加賀見くんの身体から出られなくて窮屈な思いをしているのに。


『ケチ! 前田さんのときとは対応が大違いじゃん。まったく、私にも優しくしてよね』

 不満を口にすれば、ゴフッと加賀見くんが咳き込む。

咀嚼していた卵焼きが気管に入りそうになって、私まで肝が冷えた。


『ちょっと、感覚を共有してるんだから気をつけてよ!』

「お前、そこでなんで前田さんが出てくるんだ」


 あそこまであからさまに彼女に反応していれば、恋愛に疎い私でも分かる。

好きな人と、その他の人間の扱いの差が激しいと文句を伝えたつもりなのだが、彼は私が知るはずないと思っていたようで動揺していた。


『加賀見くんさぁ、前田さんのこと好きでしょ』

「……意味が分からない、根拠のないことを言うな」

『忘れたのかなぁー? 加賀見くんと私は感覚を共有してますから』

「だからって、心までは分からないだろ」

『なんとなくなら感じるよ。この胸のトキメキは確実に恋だって』

「……面倒なヤツに知られた……」


 無意識になんだろうが、加賀見くんは白状した。

すぐに自分の失言に気がついた彼は、ハッとしたように口元を手で押さえる。


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