夜空に君という名のスピカを探して。
『勉強なんて、しようと思えばいつでも出来るじゃん。友達と語り合ったり、恋に勤しんだり、今しかできないことに時間を費やすことのほうが価値があると思う』

 そう言えば、彼はフンッと鼻で笑った。

「実りのない会話に耳を傾けるくらいなら、家に帰ってテレビのニュースを見ていたほうがずっと価値があると思う。恋に勤しむくらいなら、勉強していたほうがずっと有意義だ」


 ニュースのくだりは百歩譲って聞き流すとして、恋するくらいなら勉強するとはどの口が言っているのか。

前田さんにときめいていたのは、どこの誰だ。


『この、わからずや! こうなったら、楓様が直々に教えてあげようじゃないの!』


 変な使命感に燃えて、私はまたもや加賀見くんの中で叫ぶ。

案の定、加賀見くんは両手で耳を塞ぎ、苛々した様子で声を上げる。


「だから叫ぶな!」


 道のど真ん中で叫んだ彼に、通行人が好奇の目線を向ける。

それに気づいた加賀見くんは、苦虫を噛み潰したような気分になっているのが伝わってきた。

それをしめしめと心の中で意地悪く笑いながら、私はからかうように話しかける。


『ぷっ……私の声は加賀見くんにしか聞こえないんだから、気をつけなよね~』

「誰のせいだ、誰の……」


 心底疲れきった声で恨めしそうに呟く加賀見くんに、私はざまぁみろと笑いながら話を戻すことにした。


『人生一度限りなんだから、もっと楽しく生きなきゃもったいないよ』


 実感はないけれど、私の一度きりの人生は終わってしまった。

でも加賀見くんは、この先もシワシワのおじいちゃんになるまで生きていく。

これは幽霊になって分かったのだが、その命が終わる瞬間に、あぁ、自分の人生ってこんなにも彩っていたんだなって思えることが重要なんだと思う。


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