夜空に君という名のスピカを探して。
『加賀見くんは夢だと思いたいんだろうけど、残念ながら現実だよ』

 ノソノソと起き上がってベッドに腰掛ける加賀見くんに、私は声をかける。


「幽霊に現実がどうこう語られたくないな」

『幽霊じゃなくて楓、ちゃんと名前で呼んでよ』

「呼び名なんて、どうでもいいだろう。幽霊で十分だ」

『そんなんだから、友達ができないんだよ。友達への第一歩は、名前で呼び合うこと。それで相手が親近感を持てれば、作戦成功なんだから』

「あいにく、幽霊に構ってる暇なんてないんでな。話はここで終わりだ」

『だから、かーえーで!』

 また加賀見くんの中で叫ぶと、加賀見くんが額に手をあてて天を仰ぐ。


「だから、俺の中で叫ぶなって言ってるだろう!」

 そういう加賀見くんも叫んでいるのだが、自覚はなさそうだ。

名前を呼ぶだけで揉めるなんてこんな調子で大丈夫だろうかと、朝からどっと疲れてしまった。



「いただきます」

『いただきます』


 挨拶をして、朝ごはんを食べる私たち。

正確に言えば加賀見くんが食べているのだけれど、味を共有できることに深く感謝した。


『んうぅ~、このアボカドベーコンのサンドイッチ、最高!』


 今日の朝食は目玉焼きにアボカドベーコンのサンドイッチ、そしてミネストローネ。

天橋家の食卓には一度だって並んだことのない、豪華なメニューだった。

 朝食の席には昨日と同じく、お父さんの姿はない。昨日も加賀見くんが起きてきた頃に家を出て行ったから、忙しいのだろう。

 なので今は加賀見くんとお母さんのふたりきりで向かい合って食事をしているのだが、気になるのは食べ物を咀嚼する音が聞こえるほどの沈黙だ。

 我が家の朝食では会話が途切れることがなかった。むしろ会話の主導権を誰が握るかで争いが始まるくらいなので、落ち着かない。

ただひたすらにサンドイッチを噛んでは嚥下する加賀見くんに、私は『ちょっと!』と声をかける。

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