夜空に君という名のスピカを探して。
「…………」

 もちろん加賀見くんはお母さんの手前、話そうとはしない。

けれど耳を傾けてくれているのは、彼の纏う空気で分かった。


『ご飯おいしいよ、とかないの?』

「…………」

『お葬式だって、もっと騒がしいはずだよ』

「…………」

『ねぇ加賀見くん、よくこの沈黙に耐えられるね』

「うるさい、騒ぐな!」


 ガチャンッと机についた手が、食器とミネストローネの水面を揺らす。

 あーあ、加賀見くんも懲りない人だ。

まるでお化けでも見るかのような目で見つめてくるお母さんに、加賀見くんは「あ」と短く声をもららす。

 加賀見くんもやっと、自分の犯した失態に気づいたのだろう。

それ以上の言葉を紡げずに、狼狽しながら視線を彷徨わせた。

 ほっておいてもいいのだが、この事故の発端は私にある。

このまま知らんぷりするのも後味が悪いので、ここは人肌脱ごうじゃないか。


『俺の心が母さんの手料理の素晴らしさに騒いでるんだ、とかどうかな』

「……は?」


 呆れたような、気の抜けた声を出す加賀見くんは、完全にお母さんの前だということを忘れているらしい。

それから少し間を置いて、彼は呆れた声を出す。


「なんだ、その小説の描写みたいな発言は」

『あはは、私、物書き志望だったからね。って、そんなことはいいから早く言って!』

「断る」

『じゃあ他に、この気まずい空気をなんとかする方法が思いついたわけ?』

「ぐっ……元はといえばお前が……っ」


 もごもごと口を動かしている彼を『ほら』と急かす。

すると加賀見くんは「わかったよ、やればいいんだろ!」と髪を搔き混ぜて、静かにお母さんを見据えた。


「……あの、母さん。俺の心が……だな」

「え? えぇ……」


 突然話し始めた加賀見くんに、お母さんは目を瞬かせる。

それだけ朝食の席で、彼が口を開くことは珍しいのだろう。


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