夜空に君という名のスピカを探して。
「母さんの手料理の……素晴らし、美味しさに騒いでて……」

「は、はぁ……」


 宇宙人でさえもっとうまく話せるだろう片言も、加賀見くんにかかれば暗号だ。

お母さんは怪訝そうに眉をひそめながら、静かにミネストローネをすくっていたスプーンを置く。


「つまりは……その、ご飯が美味しいって言いたかっただけだ」


 無理やり完結した加賀見くんだったが、言いたいことは伝わったはずだ。

お母さんの言葉を待っている間、心臓が早鐘を打っていて、あげく顔に熱が集まるのが分かる。

加賀見くんはすごく照れているらしかった。

感覚の共有というのは便利なもので、彼の思いがなんとなくではあるけれど自分のことのように分かる。


「宙……ありがとう」

 声を震わせて涙ぐみ始めたお母さんは、心の底から嬉しそうに続ける。

「あなた、普段そういうこと言わないから……驚いちゃったわ」

「……ごめん」

「いいえ、ごめんなさい。なにも言えなくなるような、この環境があなたから言葉を奪っているのよね」


 なんとなく、私が聞いてはいけないような話な気がした。

かと言って、私は耳を塞ぐことも目を瞑ることも出来ない。

勝手に盗み聞きしてしまうことを申し訳なく思いながらも、お母さんの言うなにも言えなくなるような環境、それは加賀見くんが家族とあまり話さないことと関係があるのだろうかと、耳をそばだてている自分がいる。


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