夜空に君という名のスピカを探して。
「……母さんのせいじゃない、父さんが……」
加賀見くんは、そこまで言いかけて口を噤む。
その言葉の続きの代わりに、胸がズキズキと痛みだすのを感じた。
これはおそらく、加賀見くんの感情だ。
『加賀見くん……』
どうしてこんなに胸を痛めているのか、感覚を共有しているだけで考えていることすべてが分かるわけではない。
それがもどかしくて、私はかける言葉が見つけられないでいた。
「さぁ、冷めてしまうから宙も食べて」
この話はここで終わり。
お母さんのひと言に、そんな意味が込められている気がした。
「いただきます、母さん」
話がそれたことにほっと息をついた加賀見くんはほんの少しだけ、表情を崩して笑みを浮かべた。
止まっていた時間が動き出すかのように、お母さんがミネストローネに口をつけると、加賀見くんもサンドイッチにかじりついて、食事はゆっくりと再開される。
会話は少なかったが、さっきよりもうんと和やかな空気に包まれていた。
加賀見くんの家は立派な家ばかりが建っている住宅街の一角にあり、そこから学校までは十五分ほど歩く。
昨日も通った桜並木の道を進みながら、私は念を押すように加賀見くんに声をかけた。
『加賀見くん、忘れたわけじゃないよね?』
「なんの話だ」
『友達千人できるかな計画の話だよ』
「昨日は百人って言ってたけどな」
『ということは、私の話をしっかり聞いてくれてたってことだね』
しらばっくれる加賀見くんに、私はカマをかける。
見事に引っかかってくれて、私はふふんと笑い、ちょろいなと思った。
「お前な……」
加賀見くんは苛立ちに声を震わせる。
『学校が楽しみだね、加賀見くん』
「俺は楽しみじゃない、今から引き返したい気分だ」
そんなことを言いながら、彼はいかにもな優等生なので引き返したりはしないだろう。
それからも、ぶつぶつと不満を口にする加賀見くんに笑みがこぼれる。
朝食の時間にお父さんの話題が出たとき、彼は辛そうだった。
なのでいつもの調子を取り戻した彼の悪態は、なんだか聞いてて嬉しくなった。
加賀見くんは、そこまで言いかけて口を噤む。
その言葉の続きの代わりに、胸がズキズキと痛みだすのを感じた。
これはおそらく、加賀見くんの感情だ。
『加賀見くん……』
どうしてこんなに胸を痛めているのか、感覚を共有しているだけで考えていることすべてが分かるわけではない。
それがもどかしくて、私はかける言葉が見つけられないでいた。
「さぁ、冷めてしまうから宙も食べて」
この話はここで終わり。
お母さんのひと言に、そんな意味が込められている気がした。
「いただきます、母さん」
話がそれたことにほっと息をついた加賀見くんはほんの少しだけ、表情を崩して笑みを浮かべた。
止まっていた時間が動き出すかのように、お母さんがミネストローネに口をつけると、加賀見くんもサンドイッチにかじりついて、食事はゆっくりと再開される。
会話は少なかったが、さっきよりもうんと和やかな空気に包まれていた。
加賀見くんの家は立派な家ばかりが建っている住宅街の一角にあり、そこから学校までは十五分ほど歩く。
昨日も通った桜並木の道を進みながら、私は念を押すように加賀見くんに声をかけた。
『加賀見くん、忘れたわけじゃないよね?』
「なんの話だ」
『友達千人できるかな計画の話だよ』
「昨日は百人って言ってたけどな」
『ということは、私の話をしっかり聞いてくれてたってことだね』
しらばっくれる加賀見くんに、私はカマをかける。
見事に引っかかってくれて、私はふふんと笑い、ちょろいなと思った。
「お前な……」
加賀見くんは苛立ちに声を震わせる。
『学校が楽しみだね、加賀見くん』
「俺は楽しみじゃない、今から引き返したい気分だ」
そんなことを言いながら、彼はいかにもな優等生なので引き返したりはしないだろう。
それからも、ぶつぶつと不満を口にする加賀見くんに笑みがこぼれる。
朝食の時間にお父さんの話題が出たとき、彼は辛そうだった。
なのでいつもの調子を取り戻した彼の悪態は、なんだか聞いてて嬉しくなった。