夜空に君という名のスピカを探して。
「一般企業に就職したからって、未来が明るいかって言ったらそうとも言えなくない?」


 あれよあれよという間に、私の机を挟んでディベート大会を繰り広げる親友ふたり。

ちょっぴりおバカで正直者の彩と、頭の固い現実主義者の由美子は平常運転だ。

 いつもなら由美子に加勢して彩をからかうところだが、『ユーチューバーなんて、お先真っ暗』という言葉がやけに胸に引っかかる。

私の夢もユーチューバー並みに約束された未来はないし、そうそう叶うこもない狭き門だからだ。


「物書きなんて、夢のまた夢だって笑われるのかな……」


 高校生活も終わりに近づき、私たちに残された時間は卒業までの一年となった。

この時期になると担任は「進路、進路」と口を酸っぱくして言う。

そのたびに焦りながら漠然とした未来を探し続けて、現実性と夢の狭間で板挟みになって諦めたり、諦めきれなかったりを繰り返す。

私はやっとこれだと思える夢に出会えたのに、現実という高い壁を前に今も迷っていた。

 ──いや、迷っているというより家族がなんて言うのかが怖いのかもしれない。

我が家の父は小説家になると言って、三十年間務めた会社を突然辞めてきた経歴の持ち主だ。

それからは執筆に集中したいからと働かず、お母さんは苦労したのだとか。

今は兼業で夢を追い続けているが、お母さんはよく思っていないだろう。

だからお母さんは「ひとりになっても、生きていけるような職につきなさい」と口癖のように言う。

そういった点で父からの理解は得られるだろうが、母を説得するのは至難の業なのである。


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