夜空に君という名のスピカを探して。
「私、物書きになる」


 まるで果たし状を出すかのように、進路希望調査票をお母さんに突きつけた。

 すると、お母さんの顔は進路希望調査票に書かれた【物書き】の文字に、みるみると険しくなる。


「こんなの、どうやって食べていくの? ダメに決まってるじゃない」


 それを聞いて感じたのは、“やっぱり”だった。

想定内の反応だったので、私は誠意を見せて認めてもらおうと畳みかけるように自分の気持ちを伝える。


「お母さんが反対する気持ちは分かるけど、私が初めて熱中できたことなの。だから応援してほしい」


 今まで、こんなふうにお母さんに意見したことがあっただろうか。

ううん、たぶん一度もないと思う。

基本的にお母さんの言っていることは正しいので、言い負かされることのほうが多く、なんでも「はい」のふたつ返事だった。

 でも今回のことに関しては正しい、正しくないの物差しで測れることではないと思っている。

大事なのは私の気持ちだと、親友たちが教えてくれたからだ。


「楓、物書きなんて誰もがなれるわけじゃないのよ?」

「それは分かってるよ」

「第一、芽が出るまでどうやって生活していくの?」


 しかしながら、お母さんの意見は正論過ぎて言い返すことができない。

大して賢くもない頭をフル回転させて、私はしどろもどろに答える。


「それは、バイトとかして……」

「それって、フリーターになるってことじゃない。若いうちはいいけど、歳を取ったらそうもいかないのよ? 働く先がなくて、生活していけなくなったらどうするの?」


 今から歳をとったときのことを考えろって言われても、いまいちピンとこない。

先のことよりも大事なのは、今この胸で熱く燃えている気持ちなのに。伝わらない、なにもかも。 

 黙り込んだ私を見て、お母さんはため息をつく。

私の話から興味を失ったかのようにキッチンに戻り、まな板を取り出して今晩の夕飯であろう青魚をさばき始めた。

私はそのあとを追って、めげずに声をかける。


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