夜空に君という名のスピカを探して。
「帰ったら伝えるよ、天文学者になりたいってな」

『うん、そばにいる』


 たとえ隣に立てなくても、彼の中で一緒に戦うつもりで見守る。

そんな意味を込めて彼の強気な声に応えた。

 それからしばらく星を眺めて、ようやく腰を上げると元来た道を戻っていく。

どこか緊張している様子の彼の進む道の先が、明るく照らされていますように。

そう願いながら、家を目指すのだった。



 自宅へ帰ってくると幸か不幸か、玄関に見覚えのある革靴が並んでいた。

「おかえりなさい、宙。遅かったのね」

「ただいま、母さん。少し寄り道してきたんだ」

 いつかのデジャヴかのような風景、出迎えてくれるお母さんの顔は不安げに揺れている。


「宙、夕飯は……部屋に運ぶわね」


 前にお父さんが先に帰ってきていると気づいたとき、宙くんはリビングには行かずに自室に籠ってしまった。だからお母さんも、そう言ったのだろう。


「いや、今日はリビングで食べる。ふたりに話があるから」

「え……わ、分かったわ。すぐに用意するわね」


 一瞬目を見張ったお母さんは、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべてリビングに戻っていく。

宙くんはその背を見送ることなく鞄を置きに部屋へと戻り、部屋着に着替えると確かな足取りでリビングのドアの前にやってきた。

「……ふぅ」


 緊張してるのか、ドアノブを握る手が汗ばんで小刻みに震えていた。

 私に身体があったらよかったのに。

そうしたら君の震える手を握って、背中をさすってあげられた。

それが叶わないならと、私は『大丈夫、宙くんのそばにいるよ』と声をかける。

すると宙くんは、ふっと笑って「頼もしいな」と言ってくれた。

 それから凛と背筋を伸ばすと、意を決したようにリビングのドアを開ける。


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