夜空に君という名のスピカを探して。
「高校を卒業したら、天文学者を多く輩出してる大学に行きたい。今の成績なら特待生になって学費も安く通えるし、バイトもして学費も自分で工面する。だから見守って欲しい」


 静かに頭を下げる宙くんに、気づかされたことがある。

夢を応援してもらうなら、ただこうなりたいと願望を押しつけるだけではダメなんだ。

金銭的に両親を頼ることもあるだろう。

なのに自分の望みだけ押しつけるのは、ただの我儘だ。

 だから宙くんのようにたとえ両親からの援助が受けられなくても叶えるためにどうするのか、どれほどの覚悟をもっているのかを具体的に示すことが大切だったんだ。

「あなた、私からもお願いします」

 宙くんの話を聞いていたお母さんが、お父さんに向かって頭を下げた。


「宙は昔からいい子すぎるほど、いい子でした。だけどそれは、私たちが我儘や自分の意見を言えないように育ててしてしまったせいです」

「だが……」

 食い下がらないお父さんの腕に、お母さんは手を添える。

「こんなふうに、自分の気持ちを伝えてくれたことが、私は嬉しいの。いつの間にか、こんなに大人になっていたのね」

「母さん……」

 お母さんは優しく包み込むような笑みを口元に浮かべると、宙くんの腕にも手を添えた。


「宙、もうあなたは自分の足で歩いて行けるのよね?」


 確かめるようなお母さんの問いに、宙くんはコクンッと頷く。

それを見届けて満足げに目を細めたお母さんは、お父さんに声をかける。


「あなた、どうか宙を自由にしてあげて下さい」

「わざわざ山あり谷ありの道を、進む必要はないと思うが」

「だとしても宙の人生を決める権利は、私たちにはないはずです」

「……ふぅ、お前たちの言いたいことは分かった」


 眉間にしわを寄せたまま、お父さんは息を吐くと目を閉じる。

お父さんの言葉を待つまでの間、宙くんの心臓はずっとドクドクと騒いでいた。

「……宙」


 そしてついに、判決のときがきた。

瞼を持ち上げてこちらを見据えるお父さんの目は、宙くんに似て感情を読み取りずらいけれど、いつもより優しい。


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