夜空に君という名のスピカを探して。
『えーと、宙くん……』

 私はなにか話さなければと焦っていた。

最近は沈黙も心地よかったのだけれど、なぜだか今は気まずい。


『そ、そうだ。宙くん、前田さんとはあれから連絡とってる?』


 そして気づいたときにはなにを血迷ったのか、私はとんでもない話題を吹っかけていた。

 “あれから”とは数日前に前田さんと空くんが連絡先を交換してから、という意味だ。

そんなの宙くんを通して私も見ているわけで、わざわざ聞くほうがおかしい。

宙くんは連絡先を交換した日から少しずつではあるけれど、前田さんと毎日メッセージアプリでやりとりをしている。いまさらな話だ。


「なんだよ、いまさら。楓が文章を考えてくれてただろ」

『あはは、そうですよね……』

 そう言われると思っていたので、思わずから笑いが出る。


『ねぇ、今度はメッセージ送るんじゃなくて直接話しなよ?』

 なにが悲しくて、好きな人の恋を応援しなきゃいけないのかとは思う。

けれど、私が君のためにしてあげられることといえば、私に残されている時間の最後の一秒までを使って彼が幸せになれること。

なんて、綺麗事と虚勢でいい女ぶってみる。

「……あぁ、努力する」


 なんとも気のない返事だ。彼はぼんやりと空を見つめており、心ここに在らずといった様子だ。

どこか上の空で、私の話を聞いているように思える。

 君にこの想いを知ってほしいとは思うけれど、今はただ一緒にいられる時間が少しでも長ければいい。

そう願わずにはいられない。

 でも神様は残酷だ。

私のちっぽけで些細な願いも虚しく、次の日、そのまた次の日と、私の覚醒していられる時間は減っていった。

酷いときは宙くんの学校が終わる頃、半日以上目覚めない日も増えてきた。

 そしてときどき、おかしな夢を見るようになった。


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