夜空に君という名のスピカを探して。
『楓、楓っ』
真っ暗でどちらが上で下なのか、そんな概念すらないのかもしれない世界で、私は毎度うずくまっている。
そんな私の耳に、何度も聞こえる切羽詰ったような誰かの声。遠くで誰かが、私を呼んでいるのだ。
『楓……』
その声は悲しげで、胸が締めつけられる。
それ以上聞きたくなくて耳を塞ぐと、ヒラリと舞うひとひらの花びら。
ハッとして顔を上げると、それは暗闇の中に浮き彫りになる光のようだった。
手を伸ばして触れてみると、脳裏に浮かぶ光景。
それは雪のようにハラハラと舞う桜の中で家の近くにある石段を下っている私と、反対側の階段を上がって来る誰かの姿。
その人はとても澄んだ黒曜石の瞳で私を見る。
確かこの人は私が事故に会う直前に、すれ違った高校生だ。
しかも、その顔には見覚えがある。彼は──。
『楓……』
なにかを悟りかけたとき、また声が聞こえる、見えていたはずの光景も桜が散るようにハラハラと消えていってしまう。
なにかを掴みかけたのに、悔しい気持ちで私は深い闇の底へと意識を引っ張られていった。
はたと目が覚めたら、私はざわめく教室の中にいた。
宙くんはスマートフォンをいじるカズくんや、ポッキーをかじるダイくんと一緒に机に向かって読書をしている。
『宙くん?』
「楓か……!」
まだぼんやりとした頭でなんとか声をかけると、宙くんは読んでいた本を勢いよく閉じて人目もはばからず驚きの声を上げた。
真っ暗でどちらが上で下なのか、そんな概念すらないのかもしれない世界で、私は毎度うずくまっている。
そんな私の耳に、何度も聞こえる切羽詰ったような誰かの声。遠くで誰かが、私を呼んでいるのだ。
『楓……』
その声は悲しげで、胸が締めつけられる。
それ以上聞きたくなくて耳を塞ぐと、ヒラリと舞うひとひらの花びら。
ハッとして顔を上げると、それは暗闇の中に浮き彫りになる光のようだった。
手を伸ばして触れてみると、脳裏に浮かぶ光景。
それは雪のようにハラハラと舞う桜の中で家の近くにある石段を下っている私と、反対側の階段を上がって来る誰かの姿。
その人はとても澄んだ黒曜石の瞳で私を見る。
確かこの人は私が事故に会う直前に、すれ違った高校生だ。
しかも、その顔には見覚えがある。彼は──。
『楓……』
なにかを悟りかけたとき、また声が聞こえる、見えていたはずの光景も桜が散るようにハラハラと消えていってしまう。
なにかを掴みかけたのに、悔しい気持ちで私は深い闇の底へと意識を引っ張られていった。
はたと目が覚めたら、私はざわめく教室の中にいた。
宙くんはスマートフォンをいじるカズくんや、ポッキーをかじるダイくんと一緒に机に向かって読書をしている。
『宙くん?』
「楓か……!」
まだぼんやりとした頭でなんとか声をかけると、宙くんは読んでいた本を勢いよく閉じて人目もはばからず驚きの声を上げた。