夜空に君という名のスピカを探して。
「その……放課後、図書室でテスト勉強を一緒にやらない?」

「え、テスト勉強?」


 できれば“テスト勉強”のほうではなく、“一緒に”のほうに反応してほしいところだ。

目を丸くしている宙くんに、私は困った人だなと声をかける。


『ほら、愛しの前田さんがデートに誘ってるよ』

「デ……っ、なにを言ってるんだ、全く!」


 私の出る幕なんて、最初からない。

宙くんが好きな人と上手くいくように後押しすることが、残された時間で私がするべきことなのではないか。

そう無理やり、自分の気持ちを昇華させる。


「え……ごめんね。私なんかと勉強なんて迷惑だよね……」


 私に話しかけられた宙くんの驚きの声は、前田さんを誤解させてしまったらしい。

泣き出しそうな憂鬱な顔で俯いている。


『宙くん、前田さんが誤解してるよ』

「あ、いや……。今のはひとり言だ。勉強だろ、別に断る理由はない」

『はい? なんで上から目線? 信じられない、そこは前田さんと一緒にいたいでしょ』


 別に断る理由もないって、口下手にもほどがある。堅物の宙くんは本当に手が焼ける。

前田さんが彼の言葉どう受け取ったかが心配になって、その表情から気持ちを汲み取ろうとする。

でもすぐに彼女の顔がパッと明るくなり、心配は杞憂に終わった。


「ありがとう、すごく嬉しいっ。じゃあ放課後に!」


 本当に嬉しかったのだろう。

前田さんは頬を上気させてもう一度、「ありがとう」と言うと自分の席へ戻っていく。

 想っている人に、想われる幸せ。

この先、私の知ることのない幸せを宙くんは手に入れようとしている。


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