夜空に君という名のスピカを探して。
『相変わらず不器用だね、宙くんは』

「う、うるさい」


 宙くんの素直に気持ちを伝えられない不器用なところ、星への情熱を秘めているところ。

私だけが知っていると思っていた彼のこと、それをこれから知っていくだろう彼女が羨ましかった。

それでも私は気づいてしまった恋心に、そっと蓋をするように『お幸せに』と伝える。


「お前な……」

『あたかも呆れてます、みたいな声で言っても分かるからね。本当は嬉しいんでしょ』


 そしていつか、私のこの想いも一緒にいる時間が長すぎたせいで生まれたもので、ただの友情と恋を履き違えただけだって思えたらいいのに。

 疼くように痛む胸に気づかないふりをして、私は自分の気持ちからも目をそらした。



 放課後、宙くんと前田さんは図書室で約束通りテスト勉強をすることになった。

「加賀見くん、これってどうやって解いたらいいのかな」

「あぁ、そこはこの公式を使ったらいい」


 宙くんは前田さんと向き合うようにして座っており、数学を教えている。

その光景を目の当たりにしたら、どす黒い感情が胸の中に広がり始めた。

 あぁ、こういうの見たくないな。

 蓋をしたはずの気持ちを素直に開放してあげられない苦しみというのは、針の上を裸足で歩くより辛い。

 目を閉じたくてもできないし、耳を塞ぎたくてもできない。

だから見たくないものまで見えるし、聞きたくないことまで聞こえる。

感覚の共有はこういうときに辛い。

どうせなら眠っていたままのほうがよかった、なんて考えたとき──。


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