夜空に君という名のスピカを探して。
『宙くん、その用事って前田さんと勉強したあとじゃダメなの?』

「ダメだ。俺はここで前田さんといるより、一緒にいたい人がいる」

『え……前田さんのことが好きなんじゃなかったの?』

「俺もそう思ってたけど、どうやら違ったらしい」

『急な心変わりだね』

「急じゃない、前から予感はあった」


 よく分からないけれど、彼の恋はいつの間にか終わってしまったらしい。

理由は謎だが、ほっとしている自分がいる。


『勉強はいいの?』

「勉強なんてしようと思えばいつでも出来るんだろ? 今しかできないことに時間を費やすことのほうが価値があるって、お前が言ったんじゃないか」

『それは……』


 出会ってすぐの頃、私が宙くんに言ったことだった。宙くんはその言葉を覚えてくれていたんだ。

だけど、彼が今やりたいこととはなんなのだろう。

そんな疑問を抱いていると、宙くんは電車に乗って見覚えのある駅で降りた。

 うっすらと星が見え始めた空を見て、あそこかもしれないと気づいた。

その予感は、彼が石段を登り始めたことで確信に変わる。


『ねぇ宙くん、もしかしてあの公園に行こうとしてるの?』


 そうここは、私の家の近くにある石段だ。

そしてこの石段を上がった先にある坂の上には、前に宙くんと来た星の見える公園がある。

そこに、彼は向かっているような気がした。


「楓、楓は俺に色んなものをくれたな」

『なに、急に?』

 石段を上がりながら、宙くんは私の問いには答えずにぽつりと話し出す。

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