私が母を捨てるまで
あぁ、これはワガママなんだ。
私は母に会いたいと言ってはいけないんだ。
私はそのとき理解しました。
母が大好きだったので、怒られると嫌われてしまう。
嫌われるくらいなら寂しい方がいいと思いました。
それから、寂しくて夜泣く事はあっても
静かに、誰にも見つからないように声を押し殺して泣くようになりました。
そうしたら祖母の表情も穏やかになり、母も前より優しくなりました。
保育園に行ったり、友達とホッピングや一輪車で遊んだり
畑のお手伝いをしたり、祖父と釣りをしたり
たくさん美味しいものを食べて
たくさん笑って、私は保育園を卒業しました。
その頃から母の彼氏が、時々家に来るようになっていました。
祖母にも母にも優しく、面白いので私も徐々に懐きました。
祖母は、私の小学校に上がる準備を楽しそうにしていました。
ある日母が帰って来た時に赤色の立派なランドセルを貰いました。
母の彼氏のお父さんが作ってくれたそうですが、祖母は少しだけ寂しそうな顔をしました。
私とランドセルを買いに行く約束をしていたのです。
寂しそうな祖母の顔を忘れられず、母が仕事に行った後
「ランドセルもらっちゃったね」と声をかけると
「良いんだよ。お前は素直に喜んでおきなさい。」と祖母は寂しげに笑いました。