半径1kmの恋物語
*12月のある日のこと*
さようなら
『悪い。電車に乗り遅れた。先に店入ってて。』
待ち合わせのお店に着いたと同時に届いた連絡。
亮輔はいつもこうなのだ。
付き合うまでは待ち合わせよりも早めに待ってくれていて、帰り際は次に会う日にちなんかを決めたりして、とにかくマメだった。
それが今となっては遅刻の常習犯。
会う頻度も2~3ヶ月に1度。連絡をしても大体返事が来ない。いわゆる既読スルーの状態だ。
仕事が忙しい、という言い訳はもう聞き飽きた。
もう分かっている。
私達の間にはもう恋愛感情が冷えてきているのだと。
加奈子はお店のドアを開けると、ポニーテールにブラウンのリボンの髪留めを付けた若い女性が席に案内してくれた。
ランチの時間帯はこの女性がフロアを駆け回っている姿をよく見かける。
多分、この女性は私がこの店によく来ていることを知っているのだろう。
特に説明をすることも無くメニューをテーブルに置いてにっこりと微笑んですぐに下がる。
「お決まりになりましたらお声掛け下さい。」
残念ながら今は何かを食べる気分にはならない。
加奈子はメニューをパラパラとめくってはみるけど、頭の中には亮輔に言ってやりたい言葉の数々しか浮かばないのだ。
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