半径1kmの恋物語
明人は大がつくほどの甘党だ。
今日は水月庵の大福が食べたい気分だった。
水月庵は朝10時から夕方16時までしか空いていない上に大福は人気だからすぐに売り切れてしまう。
お店に駆け込むと、店頭にはいつものおばさんが棚の整頓をしていた。
「あら。もしかして大福かしら?」
「は、はい...。もしかして売り切れちゃいました?」
急いで走ってきたのに。こんな言い方をされてしまうと望みはもう無いが...。
「2つだけならあるけど。持ってく?」
「ぜひ!」
走った甲斐があった。
ついでにどら焼きを1つ。これは亜耶さんへの差し入れだ。
どら焼きと引き換えに姫野王子とのあれこれを聞き出してみよう。
「おばちゃん!大福まだある!?」
お会計を終えて帰る時、同年代の女性が飛び込んできた。
リボンのついたポニーテールの彼女は和菓子よりケーキって感じに見えるが...。
おばさんはニヤリとしながら明人に手をシッシッと振ると、
「あらごめんなさいねぇ。もう売れちゃったのよー。」
と女性に向き直った。
「あーん!めっちゃ急いだのにー!」
嘆く彼女を後ろ目に急いでオフィスに戻るとした。
あいにく分けてあげたい気持ちもあるが、残念ながら今日は大福を死守する理由もあった。