半径1kmの恋物語
席に着いてから30分程してから亮輔はやってきた。
「あれ。加奈子、先に何か頼んでれば良かったのに。」
グリーンのパンツに黒のダウンジャケットといつもの格好はすっかり見慣れて、付き合った当初のときめきはすっかり無くなっていた。
いや、ときめきなんてもう求めていなかった。
加奈子は亮輔と付き合ってから5年が経つ。
2人は同じ大学のサークル仲間で2年生の冬からの付き合いになる。
社会人となってからはお互い土日休みなのに何故か一緒に過ごす時間が減っていって…。
最初はこんなものかと思っていた。
自分の時間を大切にするだとか、仕事に打ち込むだとか。
離れていても信頼し合えているものだと思っていた。
だけど、そう思っていたのは加奈子だけで、亮輔は違っていたみたいだ。
「とりあえず朝食べてないから何か食べていい?めっちゃ腹減ったわー。加奈子は何かいる?」
「ううん。今日はちょっと胃の調子が良くなくて。」
「でも飲み物くらい頼んだら?ほら、ミルクティーとかさ。コーヒーよりかは胃に優しいんじゃない?」
愛情がすっかり失われて嫌悪感すら覚える相手の余計なお世話にはイライラする。