半径1kmの恋物語
「亮輔、他に女の人いるでしょう?」
「……えっと…。」
一かバチか鎌をかけたけど、わかりやすい亮輔の反応を見て確信した。
亮輔は基本的にはわかりやすくて正直者なのだ。
嘘をつく時は『仕事が忙しい』という一択だけで、ここまでやってきたということかよく分かった。
わかりやすい所が可愛かったけど、今となっては苛立つ原因の一つだ。
「ごめん。会社の後輩で相談にのってるうちについ…」
「相手の事なんてどうでもいいよ。」
知りたくもない相手の情報なんていらない。
「どうせ12月24日だって会社の飲み会じゃなくて、その相手と会うんでしょ。」
深く考えずに発した言葉はどうやら図星だったようで、亮輔は口を噤んだ。
ここで先ほどの店員が料理と飲み物を運んできた。
加奈子も亮輔も他の客と同じトーンで会話していたから、きっと店員も周囲の客も私達の状況には気付いていないだろう。
それでも頼んだものがテーブルに並べられていくのを無言で眺めている時間はピリピリしていて、若干の居心地の悪さぐらいは感じているかもしれない。
「ごゆっくりどうぞ。」
そう言って店員が下がっても亮輔は料理に手を付けなかった。
さすがに食欲も引っ込んでしまったか。