半径1kmの恋物語
亜耶にも恋愛経験が無いわけでは無い。
高校生の時に1人、大学生のときに1人彼氏がいた経験がある。
しかし環境の変化でいずれも彼氏から別れを切り出されていたし、亜耶自身もそんなものだと受け入れていた。
麻衣に言わせれば『その程度の恋愛だったのよ、それは本当の恋愛じゃない!』といつも熱量を持って語られるのだ。
そんな亜耶が所属するのは、飲料メーカーのマーケティング部で宣伝販促の仕事を任せられている。
新商品を宣伝する為に街頭イベントを企画したり商品のおまけを考えたりもする。
午後はまず営業部に販促物を届けに行くことにした。
営業部があるのは1つ上のフロアだけど、大きなダンボール箱を抱えているからエレベーターを使う。
目的の階に到着すると人の気配を感じたけど、先に降ろさせてもらおう。
「すいません…すぐ降りるので…」
「大丈夫ですか?良かったら俺が…」
…と上から降ってきた言葉と同時に手元がふわりと軽くなる。
「わ…ありがとうございま…!」
見上げると見覚えのある顔に亜耶は驚愕した。
彼は営業部の堀田司。
2年前に新卒で入社してきて、その見た目から当時は女子社員の中で一躍有名人になった。
影で『王子』と呼ばれていていることが違う部署の私の耳にまで入っている。
そんな彼を至近距離で見れるなんて…!!
(ふふっ…!眼福、眼福…!)