天使にまつわるエトセトラ 〜40歳で母になりました〜
受精卵の着床、妊娠の陽性反応と共に、早くも「悪阻=つわり」が始まってしまった2018年の11月。
それは私にとって血湧き肉躍る音楽イベントの、繁忙期でした。

妊娠の判定日が11月6日。
その3日後には、とあるピアノコンペティションの第一次予選の開幕が控えていました。

「浜松国際ピアノコンクール」です。

読書好き、という方は。
あるいは私の過去エッセイを読んで下さっていた方はご存知かもしれません。
直木賞と本屋大賞をダブル受賞し、昨年には映画化もされ話題になった恩田陸さんの著作『蜜蜂と遠雷』のモデルとなった舞台です。

そうです。
要するに、聖地巡礼です。
巡礼…それはオタクが最もテンションの上がる行事。
あの栄伝亜夜が、マサルが、高島明石が、風間塵が、己の才能と努力を10本の指に込め至高の音楽を目指して繰り広げた闘いの舞台が、すぐそこにっ!!(すみません、暑苦しい。)

しかも、このコンクール、開催は3年に一度。
今回を逃したら次は2021年。
そんなの、行かない訳には、いかないじゃないですか、ねぇ。←知らんがな

あの分厚い『蜜蜂と遠雷』を、通しで3回読んでしまったくらい原作ファンであった私は、この浜松国際ピアノコンクールのチケットが発売された夏、1次予選のうち2日間、2次予選のうち2日間、3次予選は全2日間、本戦(ファイナル)全2日間と合計8日分のチケットを、既に押さえてしまっていました。鼻息も荒く、行く気マンマンだった訳です。

ところがどっこい。
つわり、開幕3日前に、まさかの襲来。

ヤベぇ、詰んだ。と思いました。

このコンクール、3週間ほどの期間をかけて、毎日毎日、朝から晩まで、世界からやってきた若手ピアニスト達の演奏が繰り広げられます。
ピアノ好きには堪りません。
しかも、普通の演奏会ではなく、コンペティション。技術や表現力を駆使して、若手の精鋭達が競う訳です。お客さんもパンフレット片手に審査員の真似事なんかしたりして。またそれが面白いんですよねー。

話が逸れましたが、要は
①開催期間が長い
そして
②コンテスタント(出場者)が演奏している間は会場から出られない
というのが、ツワラーの私にとってかなり辛いポイントでした。

一次予選はまだ良かったんです。
演奏者の持ち時間が各20分ずつなので、気持ち悪くなっても少しだけ我慢すれば外に出られる。
問題はその次。
2次は40分、3次は70分、、、。
その間、横になることも出来ず、ひたすらコンサートホールの狭い椅子に座っていなきゃいけない。しかも、折からの蜜蜂と遠雷ブームで連日満員御礼。ギッシリ詰まった客席は熱気ムンムン。そしてハイソなマダムから漂うキツイ香水の匂い、、、つ、つらい。逃げ場がない。
しかも自由席だから一旦出たらまた空席を探すところからやり直し。演奏が終わってはトイレへ行き、まだイケそうなら戻って席を探す。ダメそうなら後ろ髪引かれつつ帰宅する、という(笑)なかなかタフな現場でした。
日によって体調に差があったので、ホントにホントにダメな日は、お目当てのコンテスタントだけを聴いて、終わったらすぐ帰る。という対応にしていました。←でも行く←どんだけ

ああ、そうだ。あと、気持ち悪くなるといっても、私の場合は実際に嘔吐するところまでは行かなかったので(吐き気がするだけ。)何とか本選の最終日までコンクールを見届けることができました。
(牛田智大くんと韓国のイ・ヒョクくんの演奏が見事で、この若手ピアニスト2人の戦いを最後まで見られて幸せでした。二位、三位フィニッシュ。なんてことだ!)

勿体無いけど、全部キャンセルするという選択肢もあったんですよ。
でも、何とかギリギリ、悪阻の様子を見ながら、これは騙し騙しなら行けるんじゃないか、と。←なんのチキンレースだ
その後の仕事や帰宅後の家事はほぼ屍の状態でしたが、精神の充足という点においてはフル充電完了!でした。魂に栄養、必要。YO!←どうした

だってやりたいこと我慢するの嫌いなんだもーん。
と、妊婦になった途端いろいろ全開にし始める私なのでした。

つづく。
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