おっさんキューピット
食事を誰かと取るというのは久しぶりだった。
ほぼ毎日ある塾の前には買ってきた弁当を休憩室で一人で食べていたし、不良仲間といる間もお金がないし、万引きをする度胸もないので何も食べていなかった。
3人で食べていた夕食に父親が遅れて参戦し4人での食事となった。
そこに交わされる家族の会話は少年と母親との間でたまに交わされるぎこちなさを伴ったものではなく、家族というものの形を鮮明に浮かび上がらせるものであった。

「で、君は泊まっていくんだろ?娘の部屋に泊まるかい?」

「えっ?いや、それはまずいですよ」

「大丈夫だよ。君は見たところ真面目そうだし、何か起こっても大丈夫だ。むしろ起こしてうちの実験大好きっ子を引き取ってくれ」

妻と娘がツッコミを入れた後、それは笑いに変わった。
だが実際にスペースがあるのは少女の部屋しかなく、布団を敷いて寝ることになった。
ニヤついている父親が少し気になったが、彼女の部屋に向かった。

しかし、そう簡単に眠れるわけがなく。何度か寝返りをうったところで話しかけられた。
「まだ起きてる?」
「うん、全く寝れない」
「だったら外に行かない?ここら辺の星綺麗なんだよ」
彼女に促され、しっかりと防寒をしてから外に出る。
庭に持ってきた椅子を並べ二人で星を眺める。
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