おっさんキューピット
「それにしても、なんか雰囲気変わったよね。ワイルドになったっていうか悪くなったっていうか……」
「それと、なんか隠し事してない?」

しばらく会っていなくても彼女には全てお見通しのようだった。

「実は……」

彼は最近のことを全て話した。妬まれていじめられていることも、誰にも助けてもらえないことも、4年前に別れてから何かが足りない感覚がずっとあることも
彼女は椅子から立つと数歩前にゆっくりと歩き出した。

「そっか。大変だったんだね。君は昔からずっと頭が良かったもんね。勉強のことならなんでもできて、いろいろな不思議なことを教えてくれたよね」
「実は私も君ほどじゃないんだけど、学校で避けられてたんだ。女の子なのに男しかいない化学部に入って、話すこともいつも実験とか科学の話ばっかりで…」
「でも、気づいたんだ…。全員に理解されなくてもいいやって。好きなものは一人一人違うし、誰かに合わせなくてもいい。本当の私を理解してくれる人が数人いればいい。それはね、お父さんとお母さんと…」

彼女は振り向くと彼の目を見ながら言った。

「“君”……なんだよ」
「最近電話がなくて寂しかった。こっちからかけようと思ったけど、君には新しい理解者がいて、迷惑かけたら嫌だからってできなかった」
「私にも最近穴ができたみたいだったんだよ。でも、今日君と話してたら、すぅーって穴が塞がっていくみたいだった。
やっぱり私を分かってくれるのは君しかいないんだって…」
「私…。やっぱり君が好きなんだって………」

少年は涙を流し始める彼女を抱きしめた。
彼はあえて言葉はかけない。言葉などいらないとわかっていた。
彼女の体温を感じ体が熱くなったのと同時に、心にも熱いものを感じた。
彼の穴は気がつくと塞がっていた。

< 21 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop