おっさんキューピット
その言葉を呟いた時、彼が思い出したのは父のことだった。
彼の父は物理学者であった。
保育園に通っていた当時、医者をしていて忙しい母に変わって迎えにくるのはいつも父であった。
母は帰って来ない日も多かった。その時は決まって添い寝をしながら父は研究や物理の話を彼にしてくれたのだった。
その中でも多かったのはタイムマシンの話。６歳なんかでは到底理解できないような理論の話から、もしできたらどんな時代に行きたいか、といった夢がある話。
父があまりにも楽しそうに話すので、いつか自分がタイムマシンを作って父を連れて行こうと思っていた時に書いたのがこの文章なのであった。
だが、ある日突然、父は帰らない人となった。
小学校に上がって１年ほどが経った頃、突然先生に校門まで連れて行かれた。
そこにいたのは2日あっていなかった母。
車に乗り込み病院に向かうと変わり果てた父の姿があった。
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