おっさんキューピット
「僕、地元の大学にいきたいんだ。そこでやりたいことができたんだ」

母は嫌な予感が当たってしまったと思った。

「医者になる以上にやりたいことって何なの?人の命を救うって大変名誉なことだし、あなたはそれができる頭があるのよ」

「お母さんは毎日遅くまで働いて人を救って、尊敬してるし立派な仕事だってわかってる。ただそれは僕にとって“やりたいこと”じゃなくて“できること”だったんだ」

「僕は……僕は…お父さんの研究を継いでタイムマシンを作りたいんだ」

母は驚きのあまり呆然としていた。

「お父さんはタイムマシンの研究をしていた。それで事故にあった、そうでしょう?」
「もう少しで研究は完成していた…。だけど事故で完成できなかった…。僕は、お父さんの無念を晴らしたいんだ」
しばらく黙って聞いていた母が口を開いた。

「あの人の研究は全く成果を挙げられてなかったのよ。あの人のチームは無理やりな理論を試そうとしてあの事故を起こしたの…。10年経った今でもタイムマシンができていないことからわかるでしょ?」

母の言葉は衝撃的であった。事故を起こしたのが他ならぬ父自身であるということに。
そして、父が壊れていく様を一番近くで見ていた自分が気がつかなかったことに。

「あなたまで事故で失ったら私は……どうしたらいいの………?」

父の葬式以来見ていない母の涙はとめどなく流れていった。
だが、青年の決意は揺らぐどころか強まっていった。

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