おっさんキューピット
次の日、放課後まで待ち、男の子は女の子に声をかけた。

「明後日科学博物館に行かない?チケットもらったんだけど……」

女の子どころか誰かを遊びに誘ったこともない彼は緊張した面持でそう言った。
女の子は少し戸惑った様子だったが、彼のぎこちないながらも精一杯勇気を出した勧誘と、興味のある場所へのお誘いにゆっくりと頷いた。

科学博物館での1日は男の子が生きてきた中で一番楽しいものとなった。
大好きな化学や宇宙を、一緒にいて楽しい女の子と見て回れたのだから。
見学が終わると近くの公園のベンチに腰掛け、博物館の感想を言い合った。
とびきりの笑顔で話していた女の子だが、ふと何かを思い出した後泣き出してしまった。
彼は2人きりの今なら理由が聞けるのではないかと思い勇気を出して聞いた。

「最近なんでいつも泣いてるの?」

女の子は少しためらいを見せたが、次第に口を開いた。

「私のお家は昔からすごくお引越しが多いの。でも、今の学校は一番長くいて友達もいっぱいできて、ずっとここにいられるんだと思ったら、パパが「夏休みに入ったら転校するよ」って。いつも、転校することをみんなに言ったら悲しい思いをさせるから言い出せなかったんだ」

彼女の告白に驚きとやるせなさを感じた彼は、

「でも、どこに行ったって僕たちは友達だよ」と月並みな返事しかできなかった。

「うん。ありがとう」

女の子は泣いて赤くなった目をこすりながらそう答えた。

「次の土曜日の朝に引越しするから来てくれる?」

心配そうな目で見つめてくる彼女に対して彼は

「うん、絶対行くよ」
と強がって見せた。

「約束だよ」
と男の子と小指を交わした彼女は帰っていった。

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