悔しいけど好き
私もどうもと会釈してお金を入れココアのボタンを押す。
そう言えば荒川さんがこんなところにいるなんて珍しい。
秘書課は最上階で給湯室もありお偉方が飲む高級コーヒーをいつでも飲めるらしいと聞いたことがあるから、こんな自販機のコーヒーをわざわざ買わなくてもいいだろうになんて思う。

カップがカシャンと降りてきてガラガラと氷が入れられココアが注がれる。
その様子を見つめながら考えていると完了のランプがついてカップを取り出す。
我慢しきれずにその場で一口飲みながら振り向いたら荒川さんがまだ居てびっくりした。

「っ!」

「あなた、羽柴…凪さんよね?」

「あ、はい」

やっぱり知ってたか。
一瞬吹き出しそうになったのを何とか堪え、口元をなんとなく拭う。
湯気の上がったカップを持ったままの荒川さんが神妙な面もちで私を見つめるからいたたまれない。

「あの、何か?」

「神城くんと付き合ってるそうね?」

「はあ…」

つい、曖昧に返事をする。
何が言いたいんだろう。
私の方が相応しいから鷹臣と別れてとか言われちゃうんだろうか?

「あなたたちが付き合ってるのは有名よ。社内恋愛は禁止じゃないけど会社でいちゃつくのは止めていただける?社内の風紀が乱れるわ」

「は?」

「惚気も大概にしてね、不愉快極まりないから」

< 159 / 325 >

この作品をシェア

pagetop