悔しいけど好き
一階に着いて非常扉を開けホールの様子を窺う。
あまりこの格好を見られたくはないから、人通りの途切れたところを見計らって脱出したい。
その時、大事なことを思い出した。

「あ、鍵忘れた」

ココアを買うための小銭入れしか持ってなかったことに今頃気付いてはあっとため息を付く。
また階段で5階まで登って皆にじろじろ見られながら鍵取ってくるのは気が重い。
携帯も持ってないから美玖さんに連絡も出来ない。

「凪?」

どうしようかと観葉植物の陰で考え込んでると鷹臣の声が聞こえて振り向く。
帰って来た鷹臣が私に気付き足早に近づいて来た。
こんな陰にいる私によく気付いたなと感心してしまう。
でも、天の助けか、鷹臣なら私の部屋の合鍵持ってるはず!

「あっ、鷹臣ちょうどいい所に!私の部屋の鍵今もってない?」

「どうしたこんなところで?ってか、なんだその恰好?」

観葉植物から顔を出してちょいちょいと手招きすると近づいてきた鷹臣が私の哀れな姿に目を丸くしてる。

「へへっ、ちょっとドジっちゃって。着替えに行くから鍵貸して?忘れてきちゃって」

「何やってんだよ」

ふんとため息ついて呆れ顔の鷹臣は暑くて脱いでたらしい背広を私に掛けると鞄に手を入れ鍵を取り出す。
お盆休みに帰ってきて初めてのデートは合鍵つくりだった。
その後少し買い物して結局私の家でまったり過ごした。
それ以来、私の方が帰るのが早いからあまり使うことの無かった鍵だけどこういう時は役に立つなと思う。
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