悔しいけど好き

上層部と聞いて一瞬固まる。
とは言っても俺達はここでいかがわしいことはしてないし何も悪いことはしていない。
開き直りまだじろじろと薄笑いを浮かべ見てくる奴を見据えた。

そう言えば思い出した。
パーマ掛かった髪を後ろに流し少したれ目の嫌らしい目付きに右目の下のほくろ。
ニヤニヤした顔がいけすかないこいつはここの社長の御曹司、どら息子と陰で呼ばれてる袴田専務だ。
専務とは名ばかりで大した仕事もせずに遊び呆けているともっぱらの噂。

会社に顔を出すのも久しぶりじゃないのか?
よりにもよってこんな奴に目を付けられるとかほんとに俺はどうかしてる。

「そんな噂嘘に決まってるじゃないですか、ここは会社ですよ?仕事をする場であってデートする場ではないんです。上層部の方がそんなでっち上げを鵜呑みにする必要無いと思いますが?」

「……ふ~ん、そうか、残念。いいもの見せてもらえると思ったのに」

いいものっていちゃつく所でも見たいってか?悪趣味にも程がある。
さほど残念そうにも見えない薄ら笑いのまま奴はあっさり出ていった。
ほっと胸を撫で下ろして奴の出ていったドアを見つめる。

なんか危険な臭いのする奴に凪を近付けさせたくない。
まずはここの出入りは極力しないようにしよう。
凪にも一人で入らないように言っておかないと。

自分の撒いた種でまた凪が傷付くのは見たくない。
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