悔しいけど好き
仕事が一段落ついた頃、つい酷い目にあったことを忘れて自販機コーナーに行ってしまった。

「あ…」

「あっ…」

そこにいたのは荒川さん。
カップのコーヒーを持って佇んでいて、私を見るなり大きな目がより大きく見開いて固まっていた。
私もしっかり目が合い踵を返す訳にもいかず固まっていると荒川さんははっとしたようにコーヒーを傍らにある丸テーブルに置いて頭を下げた。

「この間はごめんなさい！」

ピシッと背筋の通った綺麗な９０度のお辞儀にさすが秘書だと思わず感心してしまって、我に帰って慌てる。

「あっ！いえ！私こそごめんなさい！余計なこと言ってしまいました。すぐに謝りたかったけど鷹臣にダメだって止められて…あっ…」

せっかく謝れたのにまた余計なこと言ってしまったと口を押さえるけど後の祭り。
止められたって謝ることは出来たし鷹臣が原因なのにその名前を出すべきじゃなかった。

「…いいえ、全て私が悪いんです。嫉妬に駆られてあなたに当たってしまいました。神城さんが怒るのも無理はありません」

「あ…鷹臣はなんて？」

荒川さんに何を話したのか気になって聞いてみたけど荒川さんは横に首を振るだけで何も教えてくれなかった。
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