悔しいけど好き
それを見て鷹臣は辛そうな顔で手を伸ばしてきて、私が条件反射のように身を引き拒絶すると眉根を寄せて険しい顔で伸ばしかけた手を握った。

その左手が視界に入ると関節辺りが赤くなっていた。
袴田専務を殴った時に出来たのだろう。
その時のことが思い出されてぎゅっと目を瞑り、その拍子に涙は頬を伝う。

「あんな男に襲われて怖かったよな?守ってやれなくてごめん。その上目の前で乱闘騒ぎ起こして…俺は頭に血が登って凪を気遣うことが出来なかった」

悲しそうなその声に恐る恐る目を開けると、また辛そうな顔をする鷹臣に見つめられていた。

「凪…俺が怖いか?」

「………」

その問いに答えられずにただ鷹臣を見つめて涙が溢れる。

あの資料室で気をつけろと言われてたのに相手が誰だかわからず油断したのは自分の落ち度。
それに助けてと願った思いが通じたかのように鷹臣は助けに来てくれた。
だから鷹臣が謝ることなんて一つもない。

だけど今の私は恐怖と安堵が同時に心を襲い気持ちがバラバラになりそうだった。
やっと働き出した頭は、鷹臣のせいじゃないと言いたいのに言葉が出ない。
近付きたいのに体は強ばっていうことを聞かない。
鷹臣に助けてくれてありがとうと伝えたいのにこんな襲われた女に触りたくないかもと思考があらぬ方向へと進んで行く。

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