悔しいけど好き
「資料はまあ…良く出来てる。それと、いろいろご指摘ありがとう…。もう終業時間だな、帰っていいぞ」

「え?もう?」

まだ日もあるうちに帰るなんて何年振りだろう。
なんだか悪い気がして気が引ける。

「アシスタントは基本定時上がりだ。課題は終わってんだからさっさと帰れ」

素っ気ない言い様にムッとして反論しようとすると、同じアシスタントの柳美玖(やなぎみく)さんが声を掛けてくる。

「凪ちゃん帰ろう?定時で帰るのも私たちの仕事だよ?」

「そう、ですか?」

そうそう!と美玖さんに急かされ、神城にしっしと手で追い払われ、ムッとしながらお先に!と挨拶して帰ることにした。

会社を出ればまだ少し明るさが残る夕方。
ちょっと冷たい風が心地いい。

「凪ちゃん!せっかく早く帰れるアシスタントになったんだから、アフターファイブは仕事を忘れてリラックスしてね!じゃ!お疲れ!」

「あっ、お疲れ様です!」

二つ上の美玖さんは優しい笑顔で手を振って駅に向かう。

何か…気を使わせちゃってるのかな?
美玖さんに手を振り返しながら有難くも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「……」

美玖さんの姿が見えなくなると振り返りすぐそこの自分のマンションへと歩き出す。
こんなに早く帰るのはほんとに久しぶりで、仕事が残ってるわけでもないから帰って何していいか分かんない。

「久しぶりに、手の込んだ料理でも作るかな…」

独り言を呟いてゆっくりと家路についた。
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