悔しいけど好き
答えない私を見て苛立ったのか鷹臣はうつむき黙ってしまう。
こんなトラブルを巻き起こした私と付き合ったことを後悔してるかもしれない。
沈黙が鷹臣の私に対する心境だと思うと胸が苦しくなった。

「はあ…」

ひとつ大きなため息をついて身動ぎした鷹臣にまたビクリと震える。
顔を上げた鷹臣が困ったような顔をして口を開きかけたので何を言われるかと萎縮した。

「怖いよな…俺はすぐに頭に血が昇るし嫉妬に駆られて凪を乱暴に扱う。あの男と何らかわりない……」

言葉を切りぐっと一瞬険しくなった顔はいつもの捨てられそうな子犬へと変貌した。

「俺と別れた方が凪は安全に幸せになれるんじゃないかとも思った…」

「…え…」

突然の別れ話に信じられない思いで鷹臣を見つめた。
やっぱり私のこと愛想が尽きた?
私には鷹臣が必要なのに…。

「だけど…ごめん…。どう考えても俺は凪を離してやれそうもない」

「………」

「これからも凪を傷つけるかもしれない。でも別れるなんて出来ない。俺には凪が必要なんだ。誰にも凪を渡したくない」

雨の雫が滴る前髪の奥、その真剣な眼差しにはうっすらと涙の幕が張っていて、初めて見る鷹臣の泣き顔に胸が掴まれるようにきゅっと鳴った。

「こんな俺が……」

鷹臣は言葉につまって口を閉じてしまった。
私の手は自然と鷹臣の頬へと伸びていき目尻の雫を掬う。
そんな私も涙が溢れ頬から顎へと伝い床に落ちていった。

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