悔しいけど好き
遠くの壇上から挨拶してる社長しか見たことのない私は、雲の上の人と会うような感覚でちょっと戸惑う。
それに社長がということは息子の専務もいるのではないかと思うと躊躇する。
あの人には出来れば二度と会いたくない。

「専務はいないそうだ。俺も一緒に行くけど…行きたくないなら断ってもいいんだぞ?」

スマホを覆い聞こえないようにして私にこっそり言うってことは選べというよりきっと来てくれと言われてるんだろう。

「ううん、鷹臣が一緒なら大丈夫。会うよ」

私が返事をすると鷹臣は微妙な顔をする。

「お前の大丈夫は当てにならないんだよな…」

ぼそりと呟かれほんとにいいんだな?と念を押し鷹臣はスマホを耳に戻し返事をした。
強がりの私に呆れてるのがわかり苦笑いがこぼれる。
電話を切った鷹臣はじゃあ行くぞと立ち上がった。

「え!今から?」

「そうだ。やっぱりやめるか?」

「あ、いや…今とは思わなくて…」

まさか今すぐとは思わなくて心の準備が…とちょっと狼狽えるけど、心配そうな顔をする鷹臣に、大丈夫と言って立ち上がった。

「だから…お前の大丈夫は当てにならないって」

苦笑いの鷹臣は私の心境なんてお見通しで、嫌になったらいつでも帰るから言えよ?と私の頭をわしゃわしゃとかき回した。

「ちょっともう!」

文句を言いながらも鷹臣がいてくれれば私は安心できる。
心配なく社長にも会うことができると思った。
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