悔しいけど好き
「いいか?いくぞ」
会社の会議室の前、私の様子を伺う鷹臣に頷いてひとつ大きく深呼吸した。
鷹臣が扉を3回ノックし返事が聞こえドアを開ける。
鷹臣に続いて中に入ると目の前に正木部長がいた。
「羽柴大丈夫か?」
「はい、色々ご迷惑お掛けしました」
「いや…羽柴は何も悪くない。顔色はいいようで良かった」
「はい…」
にこりと笑うとほっとした様子の正木部長は「早速だがいいか?」と言って後ろを振り向くと一人の初老の男性が立っていた。
その脇に見たことのない男性が一人。
初老の男性が私の前に一歩出た。
「羽柴凪さん。この度は愚息が大変なご迷惑をお掛けしました。親としてこの場をお借りして謝罪致します」
そう言って頭を下げたこの人が社長のようだ。
遠くからしか見たことが無かったけど顔には年相応のシワがあり温厚そうで本当にあの専務と親子なのかと少し戸惑ってしまう。
「え…あの…大丈夫です」
思わずそう言ってしまうと隣から痛い視線が突き刺さる。
鷹臣に「お前はまた当てにならない大丈夫を口にして!」という顔で睨まれつい目を反らしてしまう。