悔しいけど好き
返事をした瞬間にドゴッと鈍い音と共に衝撃が頭を揺らす。
頬を殴られかろうじて踏ん張って倒れることは免れたけど、奴に胸ぐらを掴まれた。

「凪を泣かすなとあれほど言っただろう!なんてことしてくれたんだ!」

いつも冷静で余裕があるように見えた奴が目の中に炎を揺らめかせ鬼の形相で俺を罵倒する。
奴がどれだけ凪の事を大切に思っているのか痛いほど良く分かった。

「すいません…」

それでも謝るしかできない俺を奴は忌々しそうに舌打ちをして突き放すように手を離す。

奴にもあの事を話したのは、凪を大切に想ってる奴に黙ってることは出来なかったから。
それと、誰も責めようとはしなかった俺自身に対するけじめ。
凪も正木部長も、凪の家族も、海里さんでさえ俺の失態を責めることはしなかった。

それを俺自身が許せなかった。
俺がもっとしっかりしていれば凪は傷つかずに済んだかもしれないのに誰も罵ってはくれない。

だけど奴は違う。
凪を泣かせたら海里が許しても俺が許さないと言った奴の言葉を信じ、こうやってわざわざ殴られに来た。
自己満足かもしれないけど俺は奴を利用した。

「やっぱり、凪は君に任せられない。返してもらうよ」

「何故?」

「何故?言っただろう?凪を泣かせたら返してもらうと」

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